訳語・用語の研究  メモラビリア(Memorabilia)について

メモラビリア(Memorabilia)について

新刊『スヴェーデンボリのラテン語』の「文選」IV.は『真のキリスト教』387番からものです。その表題は「第三の印象的な出来事」(Tertium Memorabile)であり、このラテン語の複数形が“Memorabilia”です。なお、先に述べておきますが、「データ(資料)」の言葉はラテン語“data”から由来しており、“datum”の複数形であり、これは動詞“do(与える)”の分詞(「与えられたもの」を意味する)です。それで、このように複数形を考えることはよくあります(「商品」を意味する「グッズ」もgoodの複数形goosです)。

さて、形容詞“memorabilis”は「記憶に値する・記憶すべき・注目すべき」を意味します。この中性形が“memorabilis”であり、この実詞としての意味が「記憶すべき出来事・注目すべき出来事」となります(なお、形容詞が実詞として使われることは、今回の「勉強会」の一部です)。

この言葉はこれまでいろいろに訳されています。古くは「記憶すべき事」(静思社・真のキリスト教)、また「メモ」(アルカナ出版・同書))、「説話」(静思社・結婚愛など)です。

霊界での体験に基づく独特な意味合いを持つ言葉なので「メモ(これは論外でしょう)」や「説話」と訳しては真意を伝えてないでしょう。それで、適当な訳語が定着するまでは「音訳」である「メモラビリア」でよいかなと思っています。

 (鈴木泰之)『SPSC会報』第15号に掲載

新刊 のお知らせ スヴェーデンボリのラテン語

この本はかつてぶどうの木出版から刊行されて以来、諸事情により一般にはほとんど入手不可能な状況でしたが、このたび、全面的に改訂し、15年ぶりに出版することとなりました。スヴェーデンボリの原典を読むために特化した本書は、文法解説や文選、語彙集などで構成されており、初学者にも、ラテン語の既習者にも役立つ内容です。そのために文法事項を中心として多くの「脚注」を付けました。また「文選」は原著には原文だけですが、左右見比べることのできる「対訳」としました。

本書のSPSC版は、市販のA5判20穴対応バインダーに対応していますので、各自でバインダーを準備し、綴じ込むこともできます。

著者:ジョージ・F・ドール
編・訳者:鈴木之
判型:A5判 215ページ

2021年現在品切れです

* * * * *

※上記書籍は、現在のところSPSCのみの取扱いとなります。入手希望の方は、未製本かバインダー付きか、種別を指定して、SPSC事務局にご連絡ください。

なお、PDF版(電子書籍)も刊行します(SPSCの会員限定で無料配布、一般発売価格は検討中)。こちらは、添付ファイルを受信可能なメールで申し込んでください。PDF版は個人利用のための印刷やファイルコピーは可能ですが、再配布はご遠慮ください。

内容の一部をスヴェーデンボリ出版のウェブサイトで公開していますので、ご覧ください。
スヴェーデンボリ出版:http://swedenborg.jp

(『SPSC会報』第15号掲載記事より)

会報第15号

『SPSC会報』第15号が発行されました。会員の皆様には送付ずみです。

6月11日に開催予定の第二回交流会とラテン語の勉強会の案内を兼ねています。それに合わせてラテン語の学び方についての記事を掲載しています。

新刊案内では『スヴェーデンボリのラテン語』(5月24日発行)、近刊案内として『みことばの内意 表象と対応』について紹介しています。

近刊案内『スヴェーデンボリのラテン語』(ラテン語原典を読むための文法書)

0 原典を読みたい・ラテン語の勉強

スヴェーデンボリの著作はご存じのように近世ラテン語で書かれています。近世ラテン語はネオ・ラテン語とも言われ、中近世のヨーロッパで使われたおもに学問の世界での「公用語」でした。すなわち、論文はこのラテン語で書かれました、デカルトやニュートンもそうです。なので、当時は学問を学ぶとはラテン語を学ぶのと同じことを意味しました。

英語に「グラマースクール」という言葉があります。これは16世紀に創立されラテン語とギリシア語を主教科としましたが、その後、古典語・現代語・自然科学などを中心とする一般教育を行なう大学進学準備の公立中等学校のことです。ここからは、古典語の「文法」を学ぶことが、基本であったことがわかります。

さて、「スヴェーデンボリの著作の原典を読みたい」という人はけっこういます(柳瀬氏も学んでいます、それでも翻訳する上で、原典を参照することはありませんでした)。そして、私は挫折した人も知っています。私も、読みたいと思いました、でもどうにもなりませんでした、私も挫折しかけていました。

1 私自身のラテン語とのかかわり

私がこれまでラテン語とどのようかかわってきたのか、主な出来事を以下に概略を示しておきます。晩学であり、遅遅たるものであることがわかるでしょう。

1984年 10月 研究社『羅和辞典』入手(37歳)
91年 8月  『結婚愛』などの原典入手 次の2でその詳細(44歳)
93年 9月 『天界の秘義』『黙示録講解』などの原典入手
93年 12月 小林標『楽しく学ぶラテン語』入手、最大の良書。
94年 5月 チャドウイック『レキシコン』入手 次の4でその詳細(47歳)
97年 1月 原典対訳を含む月刊研究誌『荒野』創刊(50歳)
 2002年 1月 『スヴェーデンボリのラテン語』出版(55歳)
2011年 10月 『スヴェーデンボリ レキシコン』出版(64歳)

 

2 原典とラテン語文法書(本書)に出会う

1991年6月、ジェネラルチャーチの大会に参加しましたが、その前にブリン・アシン(ジェネラルチャーチの本部のあるフィラデルフィア郊外のコミュニティー)に立ち寄りました。そこで『神の摂理』と『神の愛と知恵』が合本となったものと『結婚愛』の原典、また他の著作など、それと一緒に本書ドール師の『AN INTRODUCTION TO SWEDENBORGS THEOLOGICAL LATIN』(原題名)を買い付けました(船便で送ってもらったので、入手したのは8月末です)。

それ以来、本書でラテン語を勉強しました。ここでわかったのは、学ぶにも手段(方法)がまずかったら、どうにもならない、ということでした。例えて言えば、料理をするのに包丁でなくナタやノコギリでは、どうにもならない、ということです。

3 神学著作を読むために特化した文法書

古典ラテン語(キケロやセネカ)の文法規則(ナタやノコギリ)をいくら学んでも無駄が多く、スヴェーデンボリ特有の表現法(包丁)を知らなかったら手に負えません。本書はごく一般的な例文を除いて、用例はスヴェーデンボリの文章からであり、翻訳のための練習問題もそうです。そしてスヴェーデンボリが多用した表現法に焦点が当てられて書かれています。説明は省きますが、「相関文」と言われる構文はその最たるものでしょう。

著作を読むのでしたら本書から学ぶのが最善であり、最短コースです。

4 『スヴェーデンボリ レキシコン』を得て、翻訳を始めた。

「文法」がわかっても読むことや翻訳することはできません。『辞書』が必要です。チャドウイックの『レキシコン』を得た時、私は歓喜しました、まさに求めていた辞書でした。この辞書にはスヴェーデンボリが使用した語はすべて載っています(そして余分な語は一つもありません)。また、語義だけでなく、その用例も載っています(辞書を使った人なら、用例のほうが重要だとわかっているでしょう)。

この辞書を得て、私は翻訳に踏み出すことができました。そして『荒野』を始めました(荒野の内容は原典対訳とスヴェーデンボリ叙事詩がおもなものでした)。

5 私の取り組んだ方法、勉強法は訳してしまうこと

『荒野』を出しながらも、文法をもっとよく学ぶために本書の翻訳を始めました、すなわち、翻訳することで理解が完全なものとなるからです。『レキシコン』もそうです、これを使用して翻訳しながらも、この辞書を翻訳することにしました。これは自分のためでもあり、原典を読みたいと思っている他の人のためでもありました。原典を読む人が一人でも多くなる、これが、日本でのスヴェーデンボリ研究の底上げにつながると確信しています(本号「スヴェーデンボリ出版設立のいきさつ」の記事参照)。

6 本書の著者の「まえがき」より

本書の意図は、学習者がスヴェーデンボリのラテン語の基本的な構文と基本的な語彙を、教師の助けとともに、一歩一歩と1年間で把握できるように述べることです。

このことを達成するため、語形変化から語形変化へと進む伝統的な配列から離れ、最も頻繁に出てくる形から始めることにしました。この方針によって,極めて初期のうちに,最小限に変更した実際の文を導入することが可能となります。また,1年間の課程のうちに、最も頻繁に出てくる形が、最も見られることになります。……

この学習法で前提となる基本的なものを「序論」に概説しておきました。言語学上の規則をよく知らない学習者は、この序論の内容を注意深く学んで理解しておくべきです.そうでないと,その後,各章で統語(文章構成)上の現象が出てきたとき、捕らえ所のないものに思えてしまいます。

私(ドール)が本書を著わそうとの衝動に駆られたのは、何年もなれ親しんだ〔英訳の〕の翻訳文の後に、スヴェーデンボリの神学著作中の生き生きとした単純で明快なラテン語に出会ったからでした。善かれ悪しかれ、学習者がこの明快さを認めることができるようになるには、その前に十分な量の詳細な知識を習得しなければなりません。しかし、その報いは、必要とされる努力をはるかに上回ります。なぜなら、いったん“概念伝達”の仕組みが把握できれば,その仕組みを乗り越えて、そこには心と意味の直接の出会いがあるからです。このことを共有してほしいと願っています.

7 ここで15年ぶりの改訂版

前記「1」のように15年前に日本新エルサレム教会内の「ぶどうの木出版」から本書を300部作成しました。でもいろいろな都合から行き渡ったのは100冊たらずでしょう。ある意味、まぼろしの文法書です。

ここでこの改定版を新たにスヴェーデンボリ出版から出すことになりました。月日の流れを長くも短くも感じます。 

(2017年3月発行『SPSC会報』第 14号掲載記事/執筆者:鈴木泰之)

『スヴェーデンボリ叙事詩』の訂正箇所

インターネット上には、スヴェーデンボリの著作や生涯について書かれた記事をいろいろと見かけますが、その中にシグステッド著『スヴェーデンボリ叙事詩』(2012年、スヴェーデンボリ出版発行)の内容を紹介しているサイトがあります。
そこに、同著作の記事の誤りを指摘する箇所がありました。「浪々ポントスのホームページ 真珠』というサイトで、その中の「野葉暮四郎・ポントス警部の痛快(痛悔)キリスト教!!」第34話の記事です。
『叙事詩』735ページで、ジョン・ウェズレーの友人フランシス・オーケリがスヴェーデンボリの著作を知るようになったのが1678年となっているが、スヴェーデンボリが生まれたのは1688年なので、それは間違いではないかという記事です。
これは、ご指摘のとおりで、1678年は誤植で、1768年が正しい記述です。
出版者として細心の注意を払っても、様々な誤植が生じてしまいます。このように、指摘していただくことはとても有難いことであり、心から感謝します。出版物を読んでいて、何か疑問点や、間違いがありましたら、会報やホームページでも回答や修正内容を公開しますので、SPSC事務局まで遠慮なくご連絡ください。

(鈴木泰之)『SPSC会報』第11号に掲載